2007年1月の記事一覧

SGK通信2007-02(数学月間情報)

2007年米国MAMのテーマが決まりました(2007.1.6): 「数学と脳」です.

米国数学会AMS,米国統計学協会ASA,米国数学協会MAA,産業・応用数学会SIAMは,2007年MAM(数学強調月間)のテーマは,”数学と脳”とすると発表.
現代科学で最も刺激的な挑戦の一つは,人間の脳とその機構を完全に理解することだ.数学は,脳の最小要素から全体の脳まで,人間の脳の機構と機能を解き明かす研究で,重要な役割を担う.数学的モデルは,脳細胞,それらの相互作用,それらの機能の理解で,中心的な役割を担い続けている.1963年のノーベル賞は,励起可能な細胞の電気的特性を近似する微分方程式を用いたモデルで,アランロイドホジキンおよびアンドリューハックスレーに授与された.彼らが創り出したモデルは,ヤリイカ巨大軸索中の活動電位の励起と伝播の基礎となるイオンの機構について記述したものだが,単一ニューロン・レベルの脳活動をモデル化する後続の多くの発展に結びついた.

 モデリングとコンピュータシミュレーションは,単細胞から相互作用をする細胞が作る巨大ネットワーク集団までの種々のレベルで,脳機能がどのようなものであるかを理解するために,実験室実験で出来ぬことを補ってきた.理論的モデルやコンピュータモデルは,これらのモデルから導かれる実験と一緒になって,細胞やネットワークのレベルで,大脳皮質の回路,回路の発展や自己組織化を支配する規則,その計算機能の解明に用いられている.

 ネットワークの動的な研究は,細胞やネットワークのレベルで,脳のような巨大な非均一ネットワークに,どのようにして斉一な模様が広範囲に生起するかの解明を助ける.ニューロンネットワーク内に広範に広がる斉一なリズム活動−通常は異なった振る舞いをする機能−は,一般化された“てんかん”やパーキンソン病などの異常の説明を助けるだろう.

 イメージングは脳の活動と形態の情報を集める非侵襲的手法と,機能推論に用いる情報を提供する.
 イメージジング法は,数学とコンピュータツールに大きく依存する.イメージング法が,それぞれ異なる数学的方法を使用している限り,それぞれが一貫性があり意味のあるイメージを形成するために,検出器の生データを結合して処理しなければならない.多くの新規なイメージング法が,脳の特性を研究するのに使用されている.例えば,拡散テンソルMRI(磁気共鳴イメージイング)1)は,脳で白質2)の構造を解析するのに使用される.拡散強調MRIのようなイメージング方法は,非侵襲的に生体組織のミクロ構造を研究する手段を提供し,脳の様々な機能領域の間の解剖学的な関係の解明を可能にしている. これにより,科学者は,異なった脳の領域間の接続性を定量化し,脳のマッピング1)ができる.また,イメージイング自体,数学的,コンピュータ的挑戦でもある.典型的なfMRI(機能的MRI)実験では,1時間あたり1Gバイトかそれ以上の情報を集め,大量のデータを解析するための新しい統計分析手法が必要とされる.

 データの複雑さと取り込み量は,情報処理と解析に新手法の数学ツールを必要としている.数学は,これらの構造と脳の種々領域の機能,これらの領域間の相互作用の理解,モデリング,解析で中心的な役割を演じる.ここで強調した動的系,ネットワークの数学,統計学,イメージングを明瞭にする数学的ツールのさらなる研究は,すべての最前線で,我々に最も近く,我々の解明進歩を助け続けるであろう.
http://mathaware.org/index.htmlより翻訳 by K.Tani)
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(訳注)
1)拡散強調MRIは,脳組織中の水分子の拡散運動にチューニングし,血流のような速い運動には影響されずに,水分子の動きだけを観察する手法.
2)神経線維の多い部位が白質,神経細胞体の部位が灰白質.

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2007年.数学月間(7/22-8/22)標語:「数学と社会の架け橋」です.
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